【唐品知浩さん×坪田華さん対談】問屋と参画者、ともに育むまちの魅力
地元に愛される飲食店をつくりたい。お気に入りの小物をそろえた雑貨店を開きたい。同じ志をもつ仲間とシェアオフィスで仕事をしたい――。地域に入って挑戦したい人の背中を押し、事業を加速し実現させる“さんかくプログラム”。事業アイデアの実現に向けて伴走する「+PLUSLOBBY日本橋問屋街」の唐品知浩さんとUR都市機構の坪田華さんに、このエリアについてお話をお聞きしました。
まちを好きになるきっかけは知り合いができること
坪田さんが所属するUR都市機構では、2016年に日本橋横山町馬喰町問屋街にコーディネートとして参加しました。翌2017年に中央区と地元からの要請を受け、日本橋横山町馬喰町問屋街のまちづくり支援を開始しました。「豊かなライフスタイルを創造し進化し続ける、問屋を核とした商工住混在都心」を街づくりビジョンに掲げる横山町馬喰町街づくり株式会社とともに、土地の利活用などを行っています。
唐品さんはリクルートで15年ほど「SUUMO別荘・リゾート」の営業担当を経験したのち、2012年に独立し別荘の専門サイトを立ち上げました。既存の枠にとらわれず、他社とのコラボイベントなども行いながら新しい暮らし方を提案する姿は、不動産業界でも注目されています。日本橋横山町馬喰町問屋街では問屋街に様々な出会いを生みだす「+PLUS LOBBY(プラスロビー)日本橋問屋街」というコミュニティスペースを運営しています。
――唐品さんはこれまでこのまちで活動してみて、どんなことを感じましたか?
唐品知浩さん(以下、唐品):まちに来る前は、歴史のある問屋街なので敷居が高いイメージがあったんですけど、全然違いました。まちの人たちがすごくオープンなのです。イベントを開いた時も家族ぐるみで参加してくれて。数よりも質を大事にした繋がり方ができるのはおもしろいし、楽しいなと思います。
――それは少し意外でした。UR都市機構のみなさんは2016年から問屋街のまちづくりに関わっていますよね。今回のプログラムについて住民の反応などはどのように感じていますか?
坪田華さん(以下、坪田):問屋街のなかでは廃業するお店が増えています。まちの方々は、昔からあるお店の看板が変わりつつあることを残念に感じながらも、この状況をプラスに受け止めようという前向きな気持ちに変わってきました。自分の街の魅力はなかなか自分では気づきにくいもので、唐品さんや外の人からの期待や評価はまちの人にとっても勇気や力になっていると思います。せっかく看板が変わるなら、まちのみなさんにとって、このまちを好きになる要素が増えたらいいなと思います。
唐品:確かにイベントや飲み会はみんなでたくさんやりましたね。僕は、まちを好きだなと思うきっかけって地域の人と駅前でちょっと挨拶するとか、まちのなかになんとなく顔見知りが増えるとか、そういうきっかけだと思うんです。深くなくてもいいので繋がっている人が増えてくるだけで、まちのことが気になってくる。だからまずはなんとなく知っている人がいてくれるだけで、まちに近寄りやすくなるんじゃないかな。
――唐品さんが空き地で企画・運営している「+PLUS LOBBY日本橋問屋街」はまさにきっかけを生む場所ですね
唐品:はい。このまちの中にいろんな人が一同に集まってフランクに話せるような場があったら、何が起きるんだろうという興味からここをつくりました。ホテルのロビーのようにプライベートとパブリックの中間のような場になってほしいという思いを込めて、プラスロビーという名前をつけました。
いろんな人の力をお借りして、このまち自体をもっともっとワクワクするような、おもしろいまちにできたらいいなと思っています。この場所はそのためのハブという感覚です。
もちろん、プログラムに参加するみなさんにもぜひフル活用してもらいたいです。
コミュニティの力を活かし、一緒にチャレンジするプログラム
――事業者それぞれの得意なことや個性をお互いに発揮できたらすてきですよね。特にこんな方に応募してほしい、というイメージはありますか?
唐品:どんな方でもウェルカムですが、日本橋という立地の良さがあるので、すでに事業としてされていることをもっと広めたい方や、もっとたくさんの方に見に来てもらいたいと思っている方には、ぜひチャンスだと思ってもらえたらいいですね。
坪田:はい。あとは今回、一棟まるまる借りることもできるので、仲間でシェアしてうまく使いこなせる方にもぜひご参加いただきたいですね。テーマ性のあるシェアオフィスや、クリエイターが集まる場なども相性がいいと思います。地域の方との繋がりなども生まれると楽しい状況が生まれそうです。
唐品:その点、今回のプログラムでは、地元の人がついてくれる強みがすごくあると思います。お店を開くときに何も繋がりがない状況で近隣へのご挨拶や仲間づくりから始めるのってなかなか厳しいので、やっぱり知り合いがいてくれるのってすごくありがたい。
坪田:そうですよね。今回の取り組みはまさに、まちの人が『一緒になにかやろうよ』って言ってくださっている環境があります。私たちがまちに入ってから4年くらいになるんですが、まちの方々に受け入れられる土壌ができてきたかなと思っています。そこをぜひ活かしてもらいたいですね。
――応募者にとって、メンタリングという形で唐品さんや坪田さんたちが一緒にチャレンジしてくれるのは、とても心強いですね。しかもこのプログラムは、事業の実証実験ができる機会もあります。この仕組みは公募する側にとっても、応募者にとってもチャレンジですよね。
坪田:この公募の仕組みにチャレンジするにあたって、本当に私たちがまちのためにやりたいこととマッチしているのか、十分な時間をかけて、アイデアを広く問いながら選定する方がこのまちにとっての正解に近づけるんじゃないかという思いがあったんです。私たちにとっても挑戦なので、まだ準備が完璧ではないという方にも、まずは参画してみてほしいです。
――参画といえば、「さんかく問屋街アップロード」というウェブサイトも公開されていますよね。
坪田:そうなんです。まさにこのプログラムのベースになるような取り組みです。このエリア自体が三角形なのと、まちに参画してくれる人を待っているというメッセージをかけています。ぜひみなさんにもチェックしていただきたいです。唐品さんは参画者の一人目ですが、今では参画者を束ねる側になりましたね。
――おふたりは、プログラムの応募者にまちのどんなところを知ってもらいたいですか?
坪田:私がこのまちですごくおもしろいと思うポイントは、誰でも商店主になれるところです。大きなビルの場合、どうしてもお金がたくさんかかってしまうので、どうしても全国チェーンの大きなお店やコンビニなどが入ることが多いです。でもここには、個人でショップを開いたり、仲間とシェアして使ったりするのにちょうどいい規模のスペースがたくさんあります。いろいろな人がお店を開くことで、それぞれの個性が出るのもいいですね。
唐品:そうですよね。あと建物もおもしろいし、問屋として専業でやられている方は専門分野についての知識が豊富。そういった強みをうまく活かして、僕らや、新たに来てくれる人の強みもまちにうまく追加できたらもっとおもしろくなると思う。たとえばネット業界の方や、いわゆるインフルエンサーのように発信が得意な人が問屋の魅力を一般の人にも分かりやすく翻訳して外に伝えていくとか。
ただ単純に『来てください』という気持ちよりも、みんなで一緒に育てていく様子を体感してほしいなと思いますよね。
幅広い参加の仕方を選べる公募のかたち
――本プログラムでは事業者のほか、コミュニティマネージャーも募集されています。事業の在方自体、地域の方々や事業者のコミュニティ形成に興味がある方にもぜひ入っていただきたいですね
坪田:事業者の規模も、コミュニティマネージャーとしての参加方法も、かなり幅広く募集しています。だから、『こういうふうにまちに入ってみたい』というニーズに合わせて、活躍できる場をまちの人と一緒に探せたらいいなと思います。
唐品:活躍できる機会やチャンスを一緒に見つけたいですね。あと+PLUS LOBBYで先日、ビルの壁を使って映画の上映会をしたんですけど、そういうまちの隙間に価値を見出して使いたいと言ってくれる人がたくさん現れてくれると、コンテンツが生まれておもしろいまちになるんじゃないかな。突拍子もない不思議なアイデアとかも大事だと思っていて、それをいかに実現できるように調整するかが僕らのやるべきことだと思っています。
坪田:隙間っていう意味だと、夜だけ使える場所とかもありますよね。
唐品:夜や土日に使われていない駐車場とかね。この辺りは成田や羽田からのアクセスも良いので、もう少し時期が経てばインバウンドもきっと戻ってきます。そうなったときにこのまちでどういうアピールができるのかは重要だと思うんです。今まで以上にインバウンドが来る可能性もある。
坪田:その時に住民が、自分たちの言葉でまちを語ったり、誇らしく思えたりするような、まちのカラーが出せるといいですね。一色に塗り替えるのではなく、どういった色がいいかをみんなで考えたいですね。マンションやホテルの側面だけではなく、そこにいろいろな色があるともっと光るし、このまちにはそのポテンシャルがあると感じています。
▼プログラムの詳細はこちら
「日本橋横山町・馬喰町エリア参画推進プログラム」ウェブサイト
https://hello-renovation.jp/nihonbashi